
今回は、2025年3月9日のバウアー投手の投球動作がボークと判定されたことについて解説します。
当日の責任審判の福家さんが「投球動作を変更したため」と説明していますが、それだけでは当事者であるバウアー投手を含めてピンとこない人が多いと思うので、解説を加えます。
※ この投球をする前にバウアー投手が「ワインドアップで投げる」ことの申告をしたことと、これに関係してくるルールについて、この記事の公開後に追記しました。
- 投球動作の変更とは
- バウアー投手の足の置き方はどうだったか?
- ではこれも…?
- 《追記①・2025年3月時点》バウアー投手がワインドアップで投げると申告していた?
- 《後日の補足(2026年1月)》この事例が、その後のルール改正につながった
投球動作の変更とは
ボークとなった理由「投球動作の変更」は、ボークのルール13項目のうちの(1)に該当します。
公認野球規則6.02(a) ボーク (1)
投手板に触れている投手が、5.07(a)(1)および(2)項に定める投球動作に違反した場合。
ここに書かれている5.07(a)(1)項とはワインドアップポジションのことで、(2)項はセットポジションのことです。
公認野球規則5.07(a) 正規の投球姿勢
(1)ワインドアップポジション
投手は、打者に面して立ち、その軸足は投手板に触れて置き、他の足の置き場には制限がない。
この姿勢から、投手は、
① 打者への投球動作を起こしたならば、中断したり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。
② 実際に投球するときを除いて、どちらの足も地面から上げてはならない。ただし、実際に投球するときには、自由な足(軸足でない足)を1歩後方に引き、さらに1歩前方に踏み出すこともできる。
投手が軸足を投手板に触れて置き(他の足はフリー)、ボールを両手で身体の前方に保持すれば、ワインドアップポジションをとったものとみなされる。
【原注1】 ワインドアップポジションにおいては、投手は軸足でない足(自由な足)を投手板の上か、前方か、後方かまたは側方に置くことが許される。(以下略)(2)セットアップポジション
投手は、打者に面して立ち、軸足を投手板に触れ、他の足を投手板の前方に置き、ボールを両手で身体の前方に保持して、完全に動作を静止したとき、セットポジションをとったとみなされる。
この姿勢から、投手は、
① 打者に投球しても、塁に送球しても、軸足を投手板の後方(後方に限る)に外してもよい。
② 打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。【原注】 走者が塁にいない場合、セットポジションをとった投手は、必ずしも完全静止をする必要はない。
しかしながら、投手が打者のすきをついて意図的に投球したと審判員が判断すれば、クイックピッチとみなされ、ボールが宣告される。6.02(a)(5)〔原注〕参照。
塁に走者がいるときに、投手が投手板に軸足を並行に触れ、なおかつ自由な足を投手板の前方に置いた場合には、この投手はセットポジションで投球するものとみなされる。【注3】 セットポジションからの投球に際して、自由な足は、
① 投手板の真横に踏み出さない限り、前方ならどの方向に踏み出しても自由である。
② ワインドアップポジションの場合のように、1歩後方に引き、そして更に1歩踏み出すことは許されない。
このように規定されていて、実は、投手がワインドアップポジションで投げるのか、セットポジションで投げるのかについては、ボールを両手で身体の前方に保持したときの足の置いた位置で決定します。
公認野球規則2025 投球姿勢(軸足が右の場合)
- 走者がいないとき
①~⑧のいずれもワインドアップポジションとして投球することができる。
(軸足が投手板に触れてさえいれば、自由な足はどこに置いてもよい)- 走者がいるとき
(1) ①~⑤はワインドアップポジション。
(2) ⑥~⑧は軸足を投手板に並行に触れ、自由な足を投手板の前方に置いているのでセットポジション。
バウアー投手の足の置き方はどうだったか?
では、バウアー投手は足をどう置いて、どのように動かしていたでしょうか。

セットポジションの【原注】に記載のとおり、
塁に走者がいるときに、投手が投手板に軸足を並行に触れ、なおかつ自由な足を投手板の前方に置いた場合には、この投手はセットポジションで投球するものとみなされる。
走者三塁でこの足の置き方をしていますから、これはセットポジションとみなされます。
そこから自由な足を一歩引いてから投げたため、審判員はセットポジションからワインドアップポジションに「投球動作の変更」をしたと判断し、ボークを宣告しました。
ではこれも…?
ではこれもランナーがいた場合はボークになるということでしょうか?🤔 pic.twitter.com/fctdChOq8o
— 代打ウィーランド (@pepepepeen_hama) 2025年3月9日
左投手の投球動作ですが、動き方はまさに今回のバウアー投手と同様ですね。
この場面では走者がいなかったので、軸足が投手板に触れてさえいれば、自由な足はどこに置いてもよく、ワインドアップポジションとみなされています(反則投球になりません)。
しかし、走者がいる場合にこれをやれば、足の置き方からセットポジションとみなされ、そこからワインドアップポジションで投球していますので、投球動作の変更でボークが宣告されます。
《追記①・2025年3月時点》バウアー投手がワインドアップで投げると申告していた?
※この節は、本記事公開後まもなく(2025年3月中旬)に、当時確認できた情報を基に追記・改稿したものです。
映像を見ると確かに、バウアー選手は投球前に「ワインドアップで投げる」と申告しています。
当初、私は「公認野球規則に載っていないルールだからワインドアップで投げると申告すればボークにならないのは、MLBが独自に取り決めていることなのだろう。」と思っていたのですが、MLBのルールOfficial Baseball Rulesを調べてみると、事前に申告すれば、今回のような投球動作でもワインドアップポジションとみなすルールが載っていることがわかりました。
Official Baseball Rules 5.07(a)(2) Comment
A pitcher will be permitted to notify the umpire that he is pitching from the Windup Position within an at-bat only in the event of (i) a substitution by the offensive team; or (ii) immediately upon the advancement of one or more runners (i.e., after one or more base runners advance but before the delivery of the next pitch).
《拙訳》投手は、(i)攻撃チームによる交代、または(ii)1人以上の走者が進塁した直後(すなわち、1人以上の走者が進塁した後、次の投球を行う前)に限り、1打席の中でワインドアップポジションからの投球であることを審判員に申告することが認められる。
しかし、日本の公認野球規則にはこのようなルールがありません。「原文に忠実に」をモットーとしているはずの公認野球規則ですが、OBR5.07(a)(2)のCommentに明記されているルールなのに、なぜか同じ項目の【原注】にこの記述がすっぽり抜け落ちていることに驚きです。
現状では「そういうルールが日本には無い」ので、審判員がボークと判定したことは適切です。
しかし、なぜないのかについては疑問に思います。単純に記載漏れなのでしょうか。これについては、ぜひ日本野球規則委員会からの公式な見解を聞いてみたいところです。
《後日の補足(2026年1月)》この事例が、その後のルール改正につながった
※以下は、事件から時間が経過した後に、改めてルール全体を整理した上での補足です。当時の記事本文・追記①の結論を変更するものではありません。
このバウアー投手の事例は、当時指摘したように、その後の公認野球規則2026年改正において、原注に記載のなかった内容が追記されるきっかけの一つとなりました。
このとき問題となった、ワインドアップともセットとも解釈できる投球姿勢について、便宜的に「ハイブリッドポジション」と呼び、ルール構造から整理した解説を別記事で行っています。
→ 【野球規則2026改正】ハイブリッドポジション導入の背景とバウアー事件
→ 【野球規則2026改正】ハイブリッドポジションとは何か ― ワインドアップ/セットポジションの定義から整理する
※ボークのルール全体を整理した資料として、「動くボーク図鑑」も別途まとめています。
→ 動くボーク図鑑(全13項目解説)
