numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

森下翔太のクロスプレイはセーフなのか?阿部監督はなぜ退場に?7月2日 阪神vs巨人

今回は、2025年7月2日、阪神vs巨人の8回裏に起こった本塁クロスプレイに関するリプレイ検証について取り上げます。主に話題は次の2つ。

  • なぜ判定がアウトからセーフに覆ったのか
  • 阿部監督はなぜ退場になったのか

私なりの視点からの解説となりますので、ルールブックなどに基づいた解説を心掛けますが、一部私見が入ります。

まずはプレイを見てみましょう

8回裏二死一・二塁からのショートゴロ。打球がイレギュラーしたことから、二塁走者の森下が三塁を蹴って本塁に突っ込みました。

www.youtube.com

一度は本塁クロスプレイでアウトが宣告されましたが、リプレイ検証の結果、判定はセーフに変更。

また、この判定に対して抗議を行った阿部監督は退場処分となりました。

なぜ判定がアウトからセーフに覆ったのか

リプレイ検証のルール

当ブログではリクエスト制度のルールをこちらの記事にまとめています。

num-11235.hateblo.jp

本件に関して重要となる事項だけ抜き出すと、次のようになります。

  • リプレイ検証は、当該審判員を除く審判員2名、控え審判員の計3名が行い、支持の多い意見を優先する
  • リプレイ検証中、判定を下した当該審判員以外の1名の審判員がグラウンド上に残り、この間、選手はベンチに戻ってはならない
  • 審判員がリプレイ検証に用いる映像は、当該試合のテレビ中継映像
  • リプレイ映像の検証時間は5分以内
  • 確証のある映像がない場合は審判団の判断
    「確証がない映像」とは、
    • グラウンドの土などでタッグやベースへの走者の足の入りが確認出来ない。
    • プレイがその他のプレーヤー、または審判員でブラインドになっている。
    • 映像自体がぶれている。
  • 検証後の判定に抗議した場合、抗議した選手と監督は退場処分

森下は触球されていなかった?

リプレイ映像は複数の角度からのものがあったので、私は、これらの映像を解析すれば、本当に触球があったかどうかを確認することはある程度までは可能かと考え、検証を試みました。

例えば、バックスクリーン側からの映像だと、この瞬間まで触球はありませんでしたが、このときにミットが見えなくなります。

しかし、これを真上からの映像で見ると、左腕に触球できているかどうかが確認出来れば、最初のスライディングについては確認完了と言えます。

DAZNのハイライト映像には含まれていませんでしたが、中継の中で流れた別の角度の映像では、この瞬間の森下選手の腕の高さが確認出来ます。

これらの映像をつなぎ合わせると、最初のスライディングまでに触球はされていなかったと考えられます。

 

次にこの瞬間の、森下選手の身体を支えている左腕に触球ができていたかどうかの確認です。

真上からの映像では分かりません。

バックネット側からの映像でも触球できているかどうかはっきりとは分かりません。

バックスクリーン側からの映像でもこの瞬間は分かりません。

しかし、ここまで確認してきた角度の映像からは、この次の瞬間からは左腕が完全にミットの上を超えて触球を避けたことが分かります。

よって、身体を支えている状態のときの左腕にミットが触れたかどうかを、中継映像から確認できればと思ったのですが、最後まではっきりした映像は確認できませんでした。三塁側からの映像があったら本当のところが確認出来たかもしれないな、と思います。

リプレイ検証結果の3つの選択肢

MLBのアンパイアリングについて解説している「Close Call Sports」の説明が分かりやすいので引用すると、リプレイ検証結果には、3つの選択肢があります。

AJ Hinch Ejected After Call Stands on Extra Inning Safe Call Due to Parallax Effect[CloseCallSports]

  • Confirmed - 確認済
    判定が正しいことを示す、はっきりとした明白な証拠が確認できた
  • Stands - 維持
    判定が正しいことの確認または覆すことのできる、はっきりとした明白な証拠が見つからない
  • Overturned - 変更
    判定が誤っていることを示す、はっきりとした明白な証拠が確認できた

以上から、私はこのリプレイ検証の映像からは、球審が判定したアウトが「はっきりとした、明確な間違い」であるとは言い切れないので、アウトの判定を「維持 (Stands)」と考えます。

しかし、実際のリプレイ検証では…

判定がセーフに覆ったので、リプレイ検証をした3名の審判員のうち少なくとも2名は、リプレイ映像を見て「森下は触球されていない」と確認できたということだと受け止めます。

なお、元NPB審判員の坂井さんの説明によると、NPBのリクエスト制度の下では、リプレイ映像を確認する3人の審判員は、繰り返し確認したい映像があったとしても、自らの判断で止めたり戻したり、映像を選んだりすることができないそうです。そして、試合中継映像で流れているものを見て、3人が「せーの」で同時に自分が考える判定を行い、その多数の判断が判定として採用されるそうです。

【リクエスト制度】MLBとNPBの違いとは? 本質的な問題点は!? [審判のさかい]

よって、サッカーのVARがいるビデオオペレーションルームのような場所とはまるで大違いの環境であると分かります。

阿部監督はなぜ退場に?

検証後の判定に抗議は認められない

  • リプレイ検証の結果が間違っている
  • 審判が威厳を保つために退場にした

といった意見をSNS上で目にしましたが、この退場措置はリクエスト制度の中で明確に規定されているルールです。また、審判団が協議して下した判定は最終であり、これに異議を唱えれば退場が宣告されることは公認野球規則自体にも明記されています。

公認野球規則8.02(c) 一部抜粋

審判員が協議して先に下した裁定を変更する場合、審判員は、走者をどこまで進めるかを含め、すべての処置をする権限を有する。この審判員の裁定に、プレーヤー、監督またはコーチは異議を唱えることはできない。異議を唱えれば、試合から除かれる。

阿部監督は、当初は投手交代を告げるために球審に近づいたようですが、結果的にリプレイ検証の結果に抗議したので、責任審判員が退場を宣告しましたが、当然退場にすべき行為です。

まとめ

私が球審だったとしても阿部監督が「投手の交代を告げに来たのではなく、最終判定に抗議をしている」と受け止めたら、その時点で監督に警告を発し、それでもなお抗議が続いたと判断したら、即刻退場にするでしょう。審判団の最終判断とはそれだけ重いものであり、試合を秩序あるものにするという観点から、やってはならない行為です。

ただし、最終判定そのものには私も疑問に感じるところがあり、リプレイ検証をしてもはっきりとした明白な証拠が確認出来ないので、当初の判定を「維持」すべきではないかというのが、私の正直な印象です。