
今回は、2025年6月6日、阪神vsオリックスの9回表に起こったボナファイド・スライド・ルール適用場面について取り上げます。
ボナファイド・スライド・ルールとは何なのか、なぜリプレイ検証となったのかなど、このプレイを一から分かりやすく解説します。
まずはプレイを見てみましょう
9回表、オリックスの攻撃。無死一塁で、オリックスの西山が二塁ゴロを打ちました。
(動画は7分30秒から)
一塁走者の廣岡は、二塁にスライディングする際に外野寄りを滑り、二塁ベースカバーに入った遊撃手の小幡と接触。小幡はバランスを崩して前のめりの態勢になり、一塁への送球が出来ませんでした。
リプレイ検証の結果、審判団は「ボナファイド・スライド・ルール適用」と判断し、一塁走者の廣岡に加えて、打者走者の西山にもアウトが宣告されました。
ボナファイド・スライド・ルールとは?
ボナファイド・スライド・ルールとは、公認野球規則6.01(j)「併殺を試みる塁へのスライディング」についてのルールのことです。
“bona fide slide”という用語は、公認野球規則の原点である「Official Baseball Rules」に出てくる用語で、ここから、6.01(j)のことを「ボナファイド・スライド・ルール」と呼んでいます。

実はボナファイド(bona fide)とは、ラテン語で「本物の」「誠意ある」「合法的な」といった意味合いで、“bona fide slide”を日本語に翻訳した「公認野球規則」では〝正しいスライディング〟と訳されています。
公認野球規則6.01(j) 併殺を試みる塁へのスライディング
走者が併殺を成立させないために、〝正しいスライディング〟をせずに、野手に接触したり、接触しようとすれば、本条によりインターフェアとなる。本条における〝正しいスライディング〟とは、次のとおりである。走者が、
(1) ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2) 手や足でベースに到達しようとし、
(3) スライディング終了時は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4) 野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。〝正しいスライディング〟をした走者は、そのスライディングで野手に接触したとしても、本条によりインターフェアとはならない。また、走者の正規の走路に野手が入ってきたために、走者が野手に接触したとしてもインターフェアにはならない。
前記にかかわらず、走者がロールブロックをしたり、意図的に野手の膝や送球する腕、上半身より高く足を上げて野手に接触したり、接触しようとすれば、〝正しいスライディング〟とはならない。
走者が本項に違反したと審判員が判断した場合、走者と打者走者にアウトを宣告する。その走者がすでにアウトになっている場合については、守備側がプレイを試みようとしている走者にアウトが宣告される。
本文に出てきた
(1) ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2) 手や足でベースに到達しようとし、
(3) スライディング終了時は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4) 野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。
の4つの条件を全て満たすスライディングは、ボナファイド・スライド = 正しいスライディング と判断されます。
言い換えると、4つの条件のうち1つでも満たさない場合や、ロールブロック(身体を回転させながら野手に接触しようとする行為)をしたり、意図的に高く足を上げて野手に接触に行こうとしたりすればボナファイド・スライドと判断されません。
ちなみに、当日の責任審判員である吉本さんは、リプレイ検証後の場内アナウンスで、「ただいまのスライディングをボナファイドとし」と説明しましたが、適切な表現は「ボナファイド・スライドでないと判断し」となります。
用語で混乱するといけないので、この記事内ではこれ以降、ボナファイド・スライドでないスライディングのことを「不正なスライディング」と表現します。
守備妨害に関してリクエストはできるのか?
小幡は廣岡のスライディングを受けた直後に「走者がベースではなく自身にスライディングした」として守備妨害をアピールしましたが認められませんでした。阪神の藤川監督はベンチを出て「今のプレイはだめだろう」と球審に主張した上で、リクエストを行いました。

実は通常、守備妨害に関してリプレイ検証を要求(リクエスト)することは認められていません。守備妨害かどうかは当該審判員の判断になるからです。
しかし、2019年から守備妨害かどうかに関することでも、
- コリジョンルール適用かどうか
- ボナファイド・スライド・ルール適用かどうか
- 併殺を妨害する走塁かどうか
についてはリプレイ検証の対象とすることとなりました。
廣岡の走塁は不正なスライディングなのか?
ではここからは廣岡の走塁について検証していきましょう。
先に説明した通り、ボナファイド・スライドであるかどうかの4要件は
(1) ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2) 手や足でベースに到達しようとし、
(3) スライディング終了時は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4) 野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。
です。廣岡の走塁をリプレイ映像(7分44秒から)で確認してみましょう。
(1) ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)
➡ ベースより先に地面に触れていますので、OKです。
(2) 手や足でベースに到達しようとし
➡ 足でベースに到達しようとしているので、OKです。

(3) スライディング終了時は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
➡ ベースを超えるようなスライディングの仕方はしていないので、OKです。
(4) 野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む
➡ 走路を変更するようなスライディングはしておらず、まっすぐスライディングしています。しかし、スライディングした先はベースではなく野手の軸足です。
野手に接触しようとスライディングしているかどうか、あるいはベースに達するように滑り込んでいるかどうか、という点で、廣岡の走塁は不正なスライディングに当たるのではないかという疑義があります。
当日の審判団は、野手の軸足に向かってスライディングしているので、条件(4)を満たしておらず、「不正なスライディングである」と判断したのではないかと推察します。

ただし、リプレイ映像をよく見ると、廣岡がスライディングした場所はベースに到達できる範囲なので、審判員によっては「ベースに達するように滑り込んでいて、走者の正規の走路に野手が入ってきたから接触した」と判断する、つまり、条件(4)に関しては100%バツではない、審判員によってはOKと評価する可能性があります。

そのため、「ボナファイド・スライド・ルールを適用しない」という結論になることもありうるプレイであると言えます。
ちなみに、私がリプレイ映像をもとに判定するなら、確かに進路変更することなくまっすぐ滑ってはいるものの、スライディングの足がベースではなく野手の軸足に向かっているように見えるので、併殺崩しを意図した不正なスライディングと判断し、ボナファイド・スライド・ルールを適用して打者走者もアウトにすると考えます。当日の審判団と同意見です。
なお、条件(4)に関しては100%バツではないと言いましたが、結論としてボナファイド・スライド・ルールを適用した場合、NPBでは当該走者に対して必ず「警告」が発せられることになっていますので、「警告しない」という選択肢はありません。
まとめ
今回の内容をざっとまとめるとこんな感じでしょうか。
- “bona fide slide”(ボナファイド・スライド)とは、「公認野球規則」では〝正しいスライディング〟と訳されている
- 走者が4つの条件を全て満たす〝正しいスライディング〟をしている場合は、そのスライディングで野手に接触したとしても、守備妨害にはならない
- 廣岡の走塁については、私は併殺崩しを意図した不正なスライディングと判断し、ボナファイド・スライド・ルールを適用すべきだと考える
- ただし、4条件のうち1つが100%バツではないため、審判団によっては「ボナファイド・スライド・ルールを適用しない」という結論になることもありうる
- NPBでは不正なスライディングをしたと判断された走者に対しては、必ず「警告」が発せられることになっている
廣岡の走塁は意見が分かれることがありうる事象で、〝正しいスライディング〟と評価される可能性はあると思いますが、どっちだ?と聞かれたら、私は「不正なスライディング」と判断します。